2000.03.12

アトリエ憲章
                 岩田豊雄(1958年4月、座員に配布)

アトリエは文学座及び文学座々員のためのものである。
世間や時流と無関係の立場に置かれる。

アトリエは文学座の工房であリ、どんな意味でも劇団ではない。(独立の生命を持たない)
その本質は非公開的なものである。
観客も文学座の関係者や友人支持会員を主とする。

アトリエは文学座の明日のために研究し、練習する機関である。
従って研究生や準座員の基礎的な技能向上の道場として、教則本的な台本をとリあげるであろう。
その場合の配役方針は、原則的な適役主義を以て臨むべきであるが、時として、その逆を試むことも望ましい。
まだ固定していない若い役者の隠れたオ能を、ひき出し得る場合があるからである。

アトリエの舞台は常に試演の性質をもち、文学座の稽古場で行われるが、時として、より広い場所で、よリ多くの観客を対手とすることもある。
これをアトリエ公演と名づけるが、もとよリ試演の本質に変リはない。
よリ広い場所へ出て行く目的は、若い役者や演出者たちの度胸づけや、稽古場の空気に慣れ過ぎる弊を破るために過ぎない。

アトリエは研究生や準座員たちに出場の機会を与えるものだが、補導的な目的で正座員(或いは座外の練達者)の出場を妨げない。

アトリエは以上の方針を以て運営されるが、時として、文学座の本公演ではリスクを高く予想される実験的台本を採用する場合もある。
この場合は正座員もまた一研究生として参加することがある。
ここにアトリエの二元的原則があることに注意すべきである。
即ちアトリエで、教則本的台本を採用すると同時に、本公演では見られぬような、難解或いは急進的な芸術性を持つ台本をも、手がける場合を生ずるだろう。
それをアトリエ本来の仕事と考えてもいいし、文学座の実験的公演と考えてもいい。そこに質的区別はない。そこに文学座とアトリエの不可分の関係がある。
ただその試演の規模の大小があるのみである。

アトリエの二元的性質ということを、再言するならば、未熟な役者の道場的実習と、文学座の練達者をも含む冒険的な試演の機関ということに帰する。
二本の枝だが樹は一つ。

アトリエが冒険的な試演をなす場合に、前衛劇がとりあげられる場合が多いだろう。
しかしいかに度々前衛劇が上演されても、アトリエは前衛劇団とはならない。
アトリエはいかなる演劇思想とも関係がない。保守的にも進歩的にもなり得ない。

アトリエの上演目録は、従って、あらゆる時代と種類の劇を含むだろう。
ただその選択はその時々の研究状態が決定すべきである。

2000.9.25修正A&E

 



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