《三創立者記念公演》は、公演を終了いたしました。
ありがとうございました。


2002.02.05更新

文学座創立65周年 三創立者記念公演
チラシ 公演日程 1・2月公演
久保田万太郎
2・3月公演
岸田國士
3・4月公演
岩田豊雄(森本薫作品)


2002年文学座2・3月公演
岸田國士作品

(1890〜1954)
明治23年、東京・四谷生まれ。
大正6年、東京大学仏文科入学。
8年に渡仏、主としてジャック・コポー主宰のヴィユ・コロンビエ座にて演劇を勉強。
大正13年、「演劇新潮」に戯曲「古い玩具」と「チロルの秋」を発表して注目を浴びる。
以後、演劇指導者としてまた演出家として新劇の育成に多大の貢献。
昭和29年、文学座公演「どん底」舞台稽古の演出中に倒れ、翌3月5日死去。
享年63歳。



『顔』
演出=今村由香


『音の世界』 『女人渇仰』
演出=松本祐子

※2月公演は『顔』『音の世界』『女人渇仰』の3作品で、一つのプログラムとなります。

配 役 物 語 どんな舞台?


出演:
『顔』
倉野章子・富沢亜古・大野容子
高瀬哲朗・瀬戸口郁

『音の世界』
戸井田稔・若松泰弘
山本郁子

『女人渇仰』
北村和夫
栗田桃子・山谷典子

:スタッフ:
装置
……
石井強司
照明
……
古川幸夫
音響効果
……
斎藤美佐男
音響効果 …… 秦 大介
衣裳 …… 宮本宣子
舞台監督
……
望月 純
演出補 …… 中野志朗
制作
……
中島 健
舞台統括 …… 黒木 仁


2002年2月20日(水)〜3月5日(火)


文学座アトリエ
2002年 2月 3月
20 21 22 23 24 25 26 27 28
開演
時間
11:30 - - - - -
- - - - - -
13:30 - - - -
16:30 - - - - - - - - - - -
18:30 - - - - - - - -

前売・予約開始●2002年1月15日(火)

入場料●一般5,500円(全席指定・税込)
         学生3,800円(取扱いは文学座のみ)


【 配 役 】

『顔』
…… 高瀬哲朗
…… 大野容子
菅沼るい …… 倉野章子
京野精一 …… 瀬戸口郁
土屋園子 …… 富沢亜古

『音の世界』
…… 山本郁子
男甲 …… 戸井田稔
男乙 …… 若松泰弘

『女人渇仰』
老人 …… 北村和夫
少女 …… 山谷典子
…… 栗田桃子

【 物 語 】

『顔』
海浜の寂れたホテル。
四人の滞在客と中年の女中頭。
彼女の語る身の上話が紡ぎだす不思議な運命の糸は…。

『音の世界』
新婚旅行中の夫と妻、妻を追ってきた元恋人の男。
電話を通して交錯する三人の微妙な心理が、やがて…。

『女人渇仰』
老人は夜の街で出会った少女に、母親や妻や娘からは得られなかった
「女」のやさしさを見出して……。
【どんな舞台?】

岸田國士と文学座
森 秀男(演劇評論家)

久保田万太郎、岩田豊雄とともに文学座の生みの親となり、1937年から始まる劇団の基礎を築いた岸田國士は、1890年に東京四谷で生まれた。軍人の長男だったため、父の意思で幼年学校から士官学校に進み、少尉に任官したが、1916年に東京帝大仏文科選科に入学、フランス演劇に興味をそそられて20年に渡仏した。ジャック・コポーのヴィユ・コロンビエ座で学び、ピエトフ劇団にも出入りして、フランスの現代演劇に親しんだ。
 父の死に遭い、23年に帰国したが、パリで書いた処女戯曲『古い玩具』を翌24年に山本有三編集の『演劇新潮』に発表して注目された。同じ年の『チロルの秋』に続いて『ぶらんこ』、『紙風船』(25年)、『葉桜』、『驟雨』(26年)、『温室の前』(27年)など清新な作風の一幕劇を生み、新進劇作家としての地位を確立する。
 その一方ではルナールをはじめとするフランス現代戯曲を翻訳し、さらに新しい演劇理論の紹介に努め、「語られる言葉」としての戯曲の文体を重視して、「人間の魂の最も韻律的な響き」を説いた。そして『牛山ホテル』(29年)から『浅間山』(31年)、『澤氏の二人娘』、『歳月』(35年)、『風俗時評』(36年)へと続く多幕物を通して、日本人論をテーマにしたモラリストとしての眼を深めてゆく。
 小山内薫の急死を引き金に、築地小劇場は1929年に分裂するが、築地の演技方法に疑問を抱いて去った友田恭介、田村秋子夫婦は、劇団新東京を経て、32年に築地座を結成した。その後継者となったのが岸田國士と久保田万太郎で、少し遅れて岩田豊雄も加わった。岸田國士は『ママ先生とその夫』と『牛山ホテル』を演出している。築地座発足の年に、岸田國士の周囲に集まった若い劇作家たちによる雑誌『劇作』が創刊されたが、川口一郎、小山祐士、田中千禾夫、森本薫、内村直也などの戯曲が築地座で初演されたのは、岸田國士の尽力によるところが大きい。
 築地座は経営的な困難が重なって、36年に解散したが、岸田、久保田、岩田の三人は、友田夫妻を舞台に専念させるため、資金を持ち寄って翌37年に文学座を作り、運営の責任を負うことにした。しかし、旗揚げの準備を進めているときに友田恭介が出征して上海で戦死し、田村秋子が参加を断るという不幸が起き、年内に予定された旗揚げ公演は中止され、38年3月に「試演」の名で第1回公演が行われた。
 初期の文学座で上演された岸田戯曲は、『紙風船』、『可兒君の面会日』、『留守』、『驟雨』など意外に少ないが、他にクゥルトリーヌ『我が家の平和』、小山祐士『魚族』、内村直哉『秋水嶺』などの演出も手がけている。
 戦時体制が強化された1940年夏、新劇のリアリズム路線を代表する新協劇団と新築地劇団は強制解散させられたが、同じ年の10月に岸田國士は大政翼賛会文化部長に就任し、文学座を去った。文化統制への防波堤としての期待を寄せられたことは確かだろうが、軍部の圧力に抗しきれず、1年9ヶ月で辞任している。41年に発足した日本移動演劇連盟での仕事もふくめて、その評価はまだ定まっていない。
 戦争を生き延びて活動を再開した文学座は、1948年に創立10周年記念公演として岸田國士の『歳月』と久保田万太郎の『あきくさばなし』を取り上げている。岸田國士は大政翼賛会の要職にいたことを理由に、47年から51年まで公職追放の処分を受けたが、執筆活動に妨げにはならなかった。49年には三幹事制が復活し、岸田國士が戦後初めて書いた戯曲『速水女塾』(48年)や『女人渇仰』(49年)、『道遠からん』(50年)は文学座で上演された。
50年には岸田國士を中心に雲の会が発足した。演劇の発展のために文学、美術、音楽などの芸術分野との交流を目指すサロン的な組織だったが、岸田が52年に病臥したことから立ち消えになった。岸田國士は54年3月の文学座公演、ゴーリキイ『どん底』を演出したが、舞台稽古中に脳出血で倒れ、急死した。同年6月には追悼公演として『紙風船』と『牛山ホテル』が上演されている。その後も『驟雨』は何度か取り上げられてきたが、創立45周年の82年には『澤氏の二人娘』が、創立50周年の87年には『歳月』が上演された。
 創立65周年を迎える今年の記念公演では、15年ぶりに岸田戯曲が登場することになるが、三編の一幕物の選び方に生新な意欲が感じられる。前に挙げた『女人渇仰』は、老人が夜の街で出会った少女に、自分の人生で得られなかった女のやさしさを見出し、その思いを語る前半と、帰宅して一緒に暮らす娘と語る後半とが見事な対比をなす。戦後の秀作といっていいが、53年に文学座アトリエで中村伸郎演出、主演で上演された。『』は1932年の作。海辺のさびれたホテルを舞台に、4人の滞在客の世話をする中年の女中頭の身の上話に秘められたふしぎな運命が浮かび出る。戦後の51年に新生新派で初代水谷八重子が演じた。『音の世界』は1931年に発表された。新婚旅行でホテルに泊まった夫婦と、その妻を追ってきた元恋人の男。電話による会話を通して、男女の微妙な心理関係を織り上げる実験的方法が面白い。この作品はこれまで上演の記録が見当たらないという。

 2002年の年頭を飾る「三創立者記念公演」――1月の久保田万太郎作品に続いて2月から3月にかけては、岸田國士の珠玉の短篇戯曲、今村由香=演出『』と松本祐子=演出『音の世界』、『女人渇仰』を一挙に上演します。これまで内外ともに上演されることの少なかった三作品が、若手演出家二人のフレッシュな感性によって、どんな新しい貌を見せてくれるでしょうか。また、65年の歴史を経て蓄積された文学座独自の演技術の真価がどのように発揮されるでしょうか。まことに楽しみな2月公演です。

 大学の仏文科に学んだ岸田國士は、特にフランス近代戯曲に興味を持ち、演劇を志すようになります。大正九年、30歳でパリに渡り、ソルボンヌ大学やジャック・コポーのヴィユー・コロンビエ座で演劇研究に励みました。大正12年に帰朝、翌年「演劇新潮」に処女作『古い玩具』を発表して文壇デビューを果します。続いて『チロルの秋』『命を弄ぶ男ふたり』『紙風船』などを発表。同時に評論・エッセイなどで独自の演劇論を展開しました。
「語られる言葉のあらゆる意味における魅力、すなわち、人生そのものの、最も直接的である同時に最も暗示的な表現、人間の魂の韻律的な響き(動き)」に戯曲美を求めるのが主眼で、その主張に添って発表された戯曲は、フランス風な繊細なニュアンスに富み、対話の妙味に乏しかった従来の戯曲界に新風をもたらしました。今回の三作品にも当然そうした作者の思いが色濃く反映されています。
 劇作家・翻訳家・演出家・評論家として常に演劇界をリードした岸田國士は、同時に、新しい作家の発掘や俳優の育成にも努めます。昭和元年、再発足した新劇協会を、7年には築地座を指導し、同人誌「劇作」を創刊して、いわゆる「劇作派」の新人作家たちに発表の機会を与えました。築地座を経て文学座の創立に加わったのも、理想とする演劇の実践の場を求めてのことでしょう。
 昭和12年、岩田豊雄・久保田万太郎とともに資金を出し合って文学座を創設、幹事となります。今で言えば芸術監督でしょうか。13年1月にようやく文学座は第一歩を踏み出しますが、そのときの勉強会には『紙風船』と翻訳の『別れも愉し』が取り上げられ、3月の「試演」と称された第1回公演ではクウルトリーヌ作『我が家の平和』を演出しました。以後、数多くの演出を手掛け、戦後には『速水女塾』や『道遠からん』を文学座のために書き下ろしています。そして昭和29年、演出を務めていたゴーリキイ作『どん底』の舞台稽古中に倒れ、3月5日の初日の日に63歳で他界、信濃町アトリエで劇団葬が営まれました。
 新劇の指針を示す数多くの評論、西欧近代劇の正しい紹介、戯曲翻訳などでも優れた業績を残し、その影響と足跡は大きく、まさに現代演劇の開拓者と呼ぶことができるでしょう。なお、その名を冠した「岸田戯曲賞」は今も、才能ある新人劇作家に与えられる勲章として広く知られています。
                                                

岸田國士●作/今村由香●演出 『顔』

海浜に建つ寂れたホテル。4月のはじめ、静かな夕刻。
 滞在客は四人。夫婦のようにも見え、夫婦でないようにも見える一組の男女。男は中年で女は若い。子爵家の御曹司だという青年京野精一と有閑夫人の土屋園子。二人はいずれも静養のためにこのホテルに泊まっている。四人の世話をするのは女中頭の菅沼るい。
 退屈を持て余す夫人を慰めようと、るいが身の上話をはじめる。それは幼い頃にはじまり、やがて、外国航路の客船でメイドとして働いていた頃の話に及ぶ。そして、るいは、こみ上げる感情を押さえきれなくなり、ついに、ある晩、暗闇の中で船員とおぼしき男を相手に犯した生涯たった一度の過ちを告白する。しかしその男が誰なのかはとうとうわからずじまいだったのだと・・・・・・。

『顔』は昭和7年5月に「中央公論」に掲載された作品。上演記録には次の二つがあります。
◇新生新派公演
 昭和26年1月、新橋演舞場
 菅原 卓=演出
 男―伊志井寛/女―花江久仁子/菅沼るい―水谷八重子/京野精一―花柳喜章/土屋園子―市川紅梅
◇くるみ座公演
 昭和31年11月、先斗町歌舞練場ほか
 菊地保美=演出
 男―北村英三/女―小沢咲子/菅沼るい―毛利菊枝/京野精一―田畑 実/土屋園子―中畑道子

 今回が演出デビューとなる今村由香。しかし、昨年10月の勉強会で『温室の前』を試演して手堅い演出ぶりを見せるなど、岸田國士作品についてはすでにウォームアップを済ませ、準備怠りなしといったところです。
                                                        

岸田國士●作/松本祐子●演出 『音の世界』

舞台では三つの情景が、それぞれ別々に展開する。一つは高級ホテルの贅沢な部屋、そこに一組の男女。ふたつ目は別のホテルのシングルルームで、男が一人。そしてもう一つ、ある商店の電話室。夜。
 ここ京都へ新婚旅行で訪れた夫と妻に男から電話がかかってくる。どうやら男は、かつて恋人であったその妻を追いかけてきたらしい。夫の耳を気にしながらも電話に応える妻。男は女への思いを断ち切るために外国へ行こうとしたが、それ以上にうまい決着のつけ方があると言い、用意したピストルを発射する。電話を通して響く銃声・・・・・・。突然思いついたように友達に会うと言って部屋を出てゆく夫。妻もまた、慌てて男のもとに駆けつけるが・・・・・・。

 『音の世界』は昭和6年10月、雑誌「文藝春秋」に発表された作品。残念ながら今のところ目立った上演の記録は見つけられません。
 題名でもわかるように、戯曲の主要な部分を電話による会話で成立させようとしたのは、作者の新たな実験でもあったのでしょう。一つ一つの言葉にこめられた繊細な心理の綾が、男女三人の微妙な関係を見事に織り上げ、卓抜な悲喜劇性をも醸しだす秀作です。
                                                 

岸田國士●作/松本祐子●演出 『女人渇仰』

 ある晩、老人が、街で春をひさぐ少女と出会う。誘われてホテルに入った老人はしかし、少女には触れようとせず、自分のこれまでの人生を静かに語りはじめる。今は亡き母親や妻、現在一緒に暮らす娘への充たされぬ思いを。そして、傍らで無心に眠る少女を眺めながら老人は言う。「おふくろからも、女房からも、娘からさえも得られない、何かしらやさしいもの、すべてが許されるようなものが、不思議におまえのなかにはある。おれにはおまえが、神々しいほど美しく見えるのだ」と。
 『女人渇仰』は昭和24年9月、雑誌『文学界』に掲載されました。上演記録は以下のとおり。

◇文学座アトリエ公演
 昭和28年5月、文学座アトリエ
 中村伸郎=演出
 老人―中村伸郎/少女―青木千里/娘―吉川浩子
 作者の女性観、フェミニズム的思考を色濃く写し出した作品で、北村和夫の老人に期待が集まります。


数多い岸田戯曲の中から選ばれた、これまであまり上演されたことのない3作品。交わされる言葉に籠められた細かい陰影が、複雑な人間心理を見事に捉え、卓抜な喜劇性を醸しだす岸田國士の世界にご期待下さい。

『顔』
昭和7年「中央公論」5月号に掲載され、
昭和26年1月、菅原卓の演出、初代水谷八重子などの出演で新生新派により初演されています。
文学座では初上演。

『音の世界』
昭和6年「文藝春秋」10月号に掲載され、
これまであまり上演されることのなかった作品です。
文学座でも初上演です。

『女人渇仰』
昭和24年「文学界」9月号に掲載され、
28年5月、文学座アトリエ公演、中村伸郎演出、主演にて初演されています。


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